「農業法人」とは農業に関する法人の総称で、農地を利用せずに農業を行っている法人と農地を利用して農業経営等を行う法人(農地所有適格法人)をあわせて、一般に農業法人と呼んでいます。農業法人の設立をお考えの方はご一読ください。
農業法人には、制度の上から大きく分けて2つの形態があります。1つは会社の形態をとる会社法人であり、もう1つは組合の形態をとる農事組合法人です。
会社形態をとる法人は、普通一般の株式会社や合同会社、合資会社、合名会社で、一般企業の法人制度を農業も利用しようということです。これらの制度を規定しているのは、会社法であり、組織体として営業行為を行おうとするものです。
合同会社、合資会社、合名会社は会社法を根拠法とし、株式会社よりも少ない人数かつ、個人の出資によって構成されるため、農地の権利を取得して農業経営を行うことができるとされました。
株式会社も会社法を根拠法とし、資本が多く集められるように株式を発行するものですが、株式の譲渡が自由に出来るため、農地の権利を取得して農業経営を行うことができませんでした。
しかしながら、経営管理能力の向上や対外的信用の向上等に資する農業経営の法人化をより一層推進する観点から、平成12年に農地法の改正を行い、平成13年及び17年の改正により、株式の全部について譲渡制限のある株式会社に限り農地の権利を取得して農業経営を行うことができるようになりました。
一方、農事組合法人の制度は、昭和37年の農業協同組合法改正により設けられたもので、組合員の共同の利益増進を目的とした組合法人です。当時農業基本法の制定により、自立経営とともに協業の助長が政策として掲げられましたが、この制度もその一環として生まれたもので、農民の協同組織に法人格を持たせたものです。
したがって、農事組合法人の組織や運営に関することは、すべて農業協同組合法に規定されているわけです。
もっとも、いわゆるJA(農業協同組合)と農事組合法人とでは、農民の協同組織という根本は同じでも、その性格は大きく異なります。農業協同組合は、主に流通面の事業を通じて組合員に奉仕するものですが、農事組合法人は、農業生産に直接関連する事業を行うわけで、とくに農業経営を営む法人の場合は、その組織自体が経営活動を行う点でむしろ農家と同じ経営体であり、経済単位といえます。
なお、この農事組合法人には、事業のうえから共同利用施設の設置等を行う法人(1号法人)と、農業経営を行う法人(2号法人)の2つの種類が設けられています。
このように組織法のうえから2つの農業法人があります。会社法人は、営利を目的とする一般の企業のために設けられたものであり、これに対し農事組合法人は農業経営等を法人化するために農業独特のものとして設けられたもので、いわば協同組織体的な性格をもっています。両者の間には、性格上の大きな違いがあるのです。
農業法人の仕組みで重要なことは、農地所有適格法人という仕組みがあることです。
農地所有適格法人というのは、農地法のうえで規定された呼び名で、それによると、「農地または採草放牧地の所有権や使用収益権を取得することのできる法人」ということになっています。つまり、農地や採草放牧地を利用して農業経営を行うことのできる法人、ということです。
農地がなくてもできる養鶏、養豚などは別ですが、その他の作目は農地を必要とする法人ですから、会社法人であろうと農事組合法人であろうと、農地所有適格法人という農地法上の要件を満たすことが絶対的要件となるわけです。
農地所有適格法人は、農業経営を行うため、農地法の許可を得て、農地を買ったり借りたりすることのできる法人です。 農地所有適格法人は、農業者などの農業関係者が中心となって組織された農業を行う法人です。次の要件を満たしていることが必要です。平成28年4月1日の法律改正により、従来の「農業生産法人」は「農地所有適格法人」に改称され、要件も緩和されました。
いわゆる野菜工場でのトマト栽培、ガラスハウスでの花卉栽培、鶏舎での養鶏など、農地を利用しない経営の場合は、農地所有適格法人の要件を満たしている必要はありません。このような農地を利用せずに農業を行っている法人と農地所有適格法人をあわせて、一般に「農業法人」と呼んでいます。
この農地法に規定された農地所有適格法人の要件というのは、まず、法人の形態が株式の全部に譲渡制限を規定してある株式会社(特例有限会社を含む)と合同会社、合名会社、合資会社、農事組合法人の5種類のいずれかの法人であること。次に、別項目「農業法人になるためには」で紹介するように事業要件、構成員要件、業務執行役員要件の3つの要件を備えていることです。
株式会社は、
等の利点があるとされ、平成13年3月1日から株式の譲渡制限を条件として農業生産法人への参入が認められています。
戦後の混乱をようやく乗り越え経済の発展を迎えた昭和30年の初め、食料たる米麦を中心とした農業経営から、経営意欲の高い農家がその生産性と、所得を高めるためその英知と資本を出し合って全国的に共同経営が続々と誕生しました。また、一方では個別農家の経営規模拡大などにより農業経営に対しても大きな資本投下が行われるようになり、企業化への芽生えが始まってきました。こうしたことから、その経営管理と課税対策上、成長作物であったミカンやナシなどの果樹や酪農をはじめとする畜産部門において、法人化の動きが全国的に活発となってきました。また、これらに対応すべく新しい法体系の整備や経営相談の体制確立が急務となり、農業の法人化問題が発生し、法的に農業生産法人が誕生することになり、法人化への支援が行われることになったのです。
現在でも農業経営の法人化が再び注目され、全国的に非常に関心が高まっているところです。法人化をすれば経営が確立され、経営が直ちに良くなるかというと必ずしもそうとは限りません。場合によっては、むしろ悪くなる場合もあります。したがって、法人化のメリットとデメリットを十分理解の上、検討することがなによりも大事であるといえます。
また、法人化をするには一定の条件、つまり経営者としての資格要件的なものを備えておくことも必要です。経営者たる者は経営の管理能力が要求され、いつまでもドンブリ勘定であってはなりません。一番大事なのは複式簿記の理解であるといえます。会社事務や税務処理等については職員や専門家に依頼することによって可能ですが、経営者たるものはこれらの内容を理解できなければ法人としての事業運営をすることができず、支障をきたす恐れがあります。複式簿記を理解することによって資金管理や投資効果、生産コスト対策等についての対応が可能となります。
したがって、法人化をする場合には経営者は複式簿記をマスターし、経営者として経営管理能力を身につけておく必要があるといえます。
法人化によって経営を進めようとする場合は、ドンブリ勘定からいきなり法人化するのではなく、一定の段階を経て、法人設立の目的を明確化した上で移行することが望まれます。
法人は個人の単位を離れ、その行う目的や事業に賛同した者同志が集合し、1つの組織体として確立を図り、権利能力を有するものであるといえます。これを経営の発展過程から捉えると下記のとおりです。
※注意※ ただし、「生命産業」である農業において資本と労働を完全に分離することが良いのかどうかは議論のあるところです。