農業法人を設立する場合、とくに農地の権利を有する法人をつくろうとする場合は、一般商工業者が法人を設立するのと比べると、手続きが大きく異なります。そこにはいくつかの農業独特の制度があります。
農業法人の設立から事業運営までの一般的な流れを示すと次のようになります。
法人を設立するにあたっては、法人化の意義やメリット及びデメリットを十分に理解した上で進めることが大事です。特に法人化に伴うデメリットに配慮し、これらを克服するとともにメリットを生かすことができるような体制を確立し、事業の運営を行うことが必要といえます。
次のような事項を検討し、最終的に法人化をするのか、しないのか、法人化をする場合にはどんな種類・形態にするかを決定することが大切です。
自ら経営者として何のために法人化をするのか、その意義について考えることが必要です。
目的は共同の利益を増進するためなのか。あるいは利益の追求なのか。そして、そのためにはどんな事業をどのように行うのかをはっきりさせる必要があります。それによって設立する法人の種類・形態が異なることになります。
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法人化をして事業を展開するにあたり、それぞれ関係すると予想される機関や団体と事前に打ち合わせをし了解をとっておくことも大事なことです。
日常の運転資金や資産取得のために必要な資金など、事業運営のために必要な資金量を見積もり、これをもとに資本金を算定します。そして、これをどのように調達するのか十分に検討する必要があります。特に出資金額や自己資本の割合は、その後の経営活動に大きく影響を及ぼすことになるため、慎重な対応が必要です。
事業の目的や事業の内容及びその規模などをもとに、構成員を何人をとするのか、誰がどんな役割を分担するのか、役員は誰にするのかなどを十分に話し合うことが必要です。
事業の目的や事業内容からみて、設立する法人は家族経営を中心とした家族法人(1戸1法人)なのか、数戸が集まってつくる協業経営による法人(協業法人)とするのか十分な検討が必要です。
新たに事業を行うため開設するのか、あるいはすでに行っている事業を法人にする(法人成り)のか。これによって法人の所在地や取得する資産、必要資金、運営方法などに影響を及ぼすことになり、さらには、法人の種類・形態にも差異が生ずることになります。
個人経営を法人経営に引き継ぐとき、法人成りや新設法人に現物出資など資産や負債をどのように引き継ぐかを検討します。特に、資産を引き継ぐ場合には個人の所得税(事業所得、譲渡所得)や贈与税の関係などを、専門家にあらかじめ相談し確認しておく必要があります。
法人化をすることによって、相続税や贈与税、農業者年金など他の制度上のとの問題が生じることがありますので、専門家にあらかじめ相談し確認しておく必要があります。
1.事前の準備 〜定款記載事項の具体的な検討〜
家族経営法人は別として、より大きな仕事をしようを思ったら、構成員だけでなく雇用する従業員を含めた人材が不可欠です。農業技術だけでなく、経理や営業、経営管理などいろんな部門の業務を考えた人員配置が必要です。
法人を設立するのに欠かせないのが、事業目論見(事業計画)書の作成です。どれだけの規模でどんな事業をするのかについて入念な計画を立てます。
実際の設立手続きに入る前に、法人の憲法ともいえる定款の記載内容を十分に検討します。事前の準備さえしっかりできていれば、あとは法務局への届出など行政上の手続きだけです。
法人設立の準備をする人を設立発起人といいます。株式会社、合同会社では1人以上、農事組合法人は3人以上の農民となっています。
商号(名称)は法人の名前です。法人を対外的にアピールするものですから、イメージがよく、業務内容がわかるような名前がよいでしょう。
事業目的(内容)に記載された範囲内の事業しか行うことができませんので、あまり具体的に細かく書くより「野菜類の生産、販売」など広く解釈できるようにしたほうがよいでしょう。農地所有適格法人の場合には、事業要件を満たす必要があるので注意が必要です。
農事組合法人、会社法人のいずれも資本金の額に制限はありません。
農地を利用して農業経営等を行う農地利用適格法人であれば、農地法の許可や農業経営基盤強化促進法の手続きが必要です。正式な申請は、設立登記が終了してから行いますが、発足後スムーズに事業を進めるためには、農業委員会や市町の関係部局に事前に相談しておくとよいでしょう。
通常2週間程度かかりますが、日数の制限はありませんのでもっと短縮することも可能です。設立登記申請日が法人設立日になりますので、大安などの縁起のよい日を設立日にするよう日程を立てる場合が多いようです。
2.設立手続き開始
実際は定款案の作成まで事前に行いますが、定款の認証を受ける前に定款記載事項である商号に類似のものがないかどうかを法務局で調査をしてから正式な定款を作成します。
法務局で類似商号がないかどうか確認調査します。同一市町内では同じような仕事内容の会社が同じ商号または類似している商号を使用することはできませんので注意が必要です。
商号が決まったら、設立登記の申請に間に合うよう社印を発注しましょう。
印鑑見本
有限会社の場合、定款の認証には社員全員の印鑑証明書が必要です。さらに、取締役予定者全員分を各1通、代表取締役については法務局用、金融機関用にも各1通必要です。
商号が決まり、定款を作成したら公証人役場で定款の認証を受けます。
出資金の払い込みが終了したら、設立登記の申請を本店の所在地を管轄する法務局に2週間以内に提出します。申請手続きは原則として代表取締役(いなければ取締役)、代表理事が行うことになっていますが、代理人でもかまいません。
法務局は申請を受け付けたのち審査をして(補正事項があれば補正を指示)、登記が完了します。登記申請日が法人の設立日になります。
農事組合法人は設立登記完了後、都道府県知事に届け出が必要です。
3.設立後の各種機関への届け出
法人の設立登記が完了したら、税務署や労働基準監督署、公共職業安定所、年金事務所、市町・農業委員会、県税事務所などの各種機関に必要な書類を提出します。届け出に必要な書類は、法人のとる態様によって異なりますので各種機関で確認してください。
※注意※ 設立準備にかかった費用や設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために要した費用は支出時に損金算入するか、または繰延資産に計上してその償却費を損金算入することが認められます。